「コミュニケーション力をつける」というと、説得力のある口調や自信に満ちた声、決断力や瞬発力を感じさせる言葉の表現など、何かと自分からの発信ばかり意識しがちです。もちろん、相手にしっかりと伝わるスピーチは身につけておいて損のないものですが、実は発信するのと同じくらい、相手の話を理解する力も大切です。
ここでは、相手の話に耳を傾け、しっかりと受け止める力「傾聴力」について深堀しています。傾聴力の意味や読み方といった基礎知識から、「きく」という行為が持つコミュニケーションの重要さを知るきっかけにしてみましょう。
傾聴力の意味とは?
「傾聴力」は「けいちょうりょく」と読みます。相手の話に耳を傾け、心に寄り添い真の意味を理解する力、といった意味合いで使われる言葉です。
ビジネスシーンに限らず、日本では本音と建て前や、婉曲な表現が使われがちで、大人になると思ったことをストレートにはっきりと伝える人は少なくなっていきます。
相手の言葉に耳を傾けていたとしても、そこに隠された真の意味まで汲み取れなければ、傾聴力が高いとはいえません。わかりやすい例を挙げると「暑くないですか、エアコンをつけましょうか」と言われたときに「私に聞いているようで、この人が暑いのかな」と察したり、「何か質問はありますか」と問いかけたときに、数秒間を置いて小さな声で「大丈夫です」と言われたら、実は聞きにくい質問があったりする可能性について考えられる人は、比較的傾聴力が高いといえるでしょう。
こうした場合に、「〇〇さんも暑いんじゃないですか」と返したり、「気にしないで、何でも聞いていいんですよ」と声をかけたりすると、相手は「自分のことを気にかけてくれている」と感じて、心の内を話しやすくなります。このように、本当のコミュニケーションは「あなたの話を受け止める準備ができています」と伝わった後に、はじめて実現することが多いのです。
「きく」には3種類の意味がある
次に、「きく」という言葉が持つ意味について、具体例を挙げて紹介していきます。「きく」という行動は大きく分けて3つの意味があり、それぞれ以下の通りとなります。
相手を追い込むの「訊く」
「訊く」の「訊」という漢字は「訊ねる(たずねる)」といった形でも使われます。相手が返答をかわせないように、しっかりと理詰めで追い込む際の「ききかた」です。
失敗やミスなどについて、事実を明らかにしたいときに「訊く」ことは、必ずしも悪いケースばかりとは限りません。しかし、いつも「訊く」姿勢ばかりを取っていると相手が委縮してしまい、言い訳や心にもない言葉を作り出してしまう原因となりかねません。委縮している相手や、防御や拒絶の意志を持った相手とは、有意義なコミュニケーションが取れなくなってしまいます。
単に音が聞こえる状態の「聞く」
レストランで食事をしているときに流れているBGMや、電車内で近くの人が会話している声など、なんとなくきこえてくる音は「聞く」と表現します。
相手と会話している時にも、相手の話をただ「聞いている」ということがよくあるかもしれません。その人が本当に伝えたいことや、真意について心を巡らせることなく、まるでBGMのように言葉としての声を聞いている状態であるともいえるでしょう。
相手が感情的にまくし立てているときには、「聞く」ことで落ち着いたり、細かな点をあえて気にしないことで、その後のやり取りがスムーズに運んだりするケースもあります。ただ、深く込み入った会話を交わすのが目的であれば、相手の話を「聞く」よりも、一歩進んだ「きく」を実践する必要があるのです。
相手の話を「聴く」
「聴く」という漢字は、音楽やラジオなどを集中して「きく」際に使われることが多いものです。人との会話でも、集中力を持って「聴く」ことにより、そこから手に入る情報の量は違ってきます。
それまでBGMとしてただ耳に入っていただけの音楽も、自分が好きな曲であれば途端に「聞く」から「聴く」へと、スイッチが切り替わることがあります。歌詞やメロディ、曲全体のイメージに入り込み、そこからメッセージを受け取ることもできるでしょう。人との会話においても、このような心で「聴く」を実践することで、傾聴力が高められます。
「聴」には、「耳」「目」「心」で聴く意味合いがある
「きく」には3つの意味があり、傾聴力には「聴く」ことの実践が大切であることがわかります。この「聴く」の中にも、「耳で聴く」「目で聴く」「心で聴く」という3つの意味合いがあるのです。
それぞれの意味合いについて、さらにくわしく見ていきましょう。
耳で聴くとは
文字通り、相手の声や言葉を「耳」で聴く行為です。話している声の大きさやトーン、震えていないか、感情的でないか、といった「音」としての声だけでなく、言葉の選び方や隠された意味、長い話の中で核心に触れている部分はどこかなど、耳から入って来る情報について「聴く」姿勢を持ちます。
適度な相槌を入れたり、相手の言葉をオウム返しにしたりすることで、「ちゃんと聴いている、理解している」とアピールするのも、耳で聴くことの効果的なアピールとなるでしょう。
目で聴くとは
「目は口ほどに物をいう」といわれる通り、会話は目で聴くことも可能です。話している相手の表情やしぐさ、視線の動き、手のジェスチャーや座り方など、視覚から得られる情報についても注目すると、目で「聴く」ことができます。
逆に、自分の方から相手の視覚に訴えることもできるでしょう。周囲が騒がしい時には耳に手を当てて聞くことや、しっかりと目線を合わせて話を聞くことで、相手に「話を集中して聴いてくれている」という安心感を与えられます。背筋を伸ばして、少し前のめりの姿勢になって話を聴くのもよいでしょう。
心で聴くとは
目や耳を使って聴く際のテクニックや、相手へ「聴いている」とアピールすることも大事ですが、何よりも重要なのは「相手の心に寄り添おうとする気持ち」です。「今、この瞬間は相手のことを考えて、真剣に話を聴こう」と腹を決めれば、それは必ず相手に伝わるものです。
このとき、相手の会話を聴いている途中で自分の意見を言いたくなっても、会話の途中で割り込んだり、否定するような言葉を投げかけたりするのはおすすめしません。相手の言葉や気持ちをしっかりと受け取り、気が済むまで話し終わった頃を見計らってから、静かに自分の意見を伝えることが大切です。
反論や怒り、悲しみなどの一見ネガティブな言葉も、心で聴けば相手の気持ちがわかり、共感することができます。こちらから発する言葉も、相手の気持ちをわかったうえで伝えるのであれば、ネガティブな表現であっても響くケースもあるのです。
会議や営業、部下の人材育成や上司との橋渡しなど、ビジネスシーンにおいても最終的には人と人とのつながりが重要となります。耳と目を使い、しっかりと心も使って聴くことで反論やクレームを覆し、傾聴力を高めて良好な人間関係を作るきっかけにできるのです。
まとめ
傾聴力とは、人の意見に熱心に耳を傾け、真意を汲み取る力という意味の言葉です。傾聴力の高い人は、些細な会話からも多くの情報を手に入れ、人間関係の構築や人望を作るうえでのベースとすることができます。
傾聴力に大切なのは「聴く」ことと、耳以外に目や心も駆使して相手に共感し、集中して話を聴くことです。傾聴力の高い人は、マネジメントやコーチングにおいても、高い能力を発揮することができるでしょう。