社員の成長に欠かせないのが「キャリアアップ」です。これは、社員個人の頑張りや仕事に対する姿勢に大きく左右される事柄ですが、会社がそれを後押しすることも大切です。また非正規雇用の社員に対する正社員登用を促進し、企業にとって力となる人材を確保することで、非正規ながらも会社のためにキャリアを研鑽した社員の士気を高めることにもつながります。ここでは、キャリアアップの意味をおさらいし、さらなるキャリアアップが期待できる人材を育成できるよう、厚生労働省が提示する「キャリアアップ助成金」についてまとめました。企業がキャリアアップ助成金を活用することで、社員の雇用を促進するとともに、さらなる「即戦力」を育て上げることにもつながります。
キャリアアップとは?意味や定義について
まずは、「キャリア」という言葉について考えていきましょう。
「キャリア」というと、どうしても漠然としたイメージしか浮かばないという声を耳にすることがあります。厚生労働省が2002年(平成14年)に「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」が提示した報告書の要旨によると、「キャリア」とは、「経歴や経験、発展」と位置付け、それに関連した職務の連鎖と表現することがあるとしています。また「時間的持続性ないし継続性を持った概念」としてキャリアという言葉を使うとしています。
まとめると、ひとつの仕事を長く続けることで、積み重ねることができる経験や経歴を「キャリア」と言い換えることができます。また、長年続けてきた仕事の内容を発展させることや、一般社員から主任・管理職というように後進を統率する立場へとステップアップするさまを「キャリアアップ」だと考えることができるでしょう。
キャリアアップには大きく分けて2種類がある
先ほど、厚生労働省が位置付ける「キャリア」に関する見解を解釈する形でキャリアアップという言葉の意味を考えていきました。このキャリアアップには大きく分けて2つの意味合いが含まれていることにも触れました。ここからは、この2つのキャリアアップの意味を深堀してまいります。
特定のスキルをより深めるキャリアアップ
「スキル」とは、その人が持つ技能や能力を表現する言葉です。長くその仕事を続けることで、誰にでも教えられるほどの能力を身に着けた場合などがこのケースに当てはまります。
また、プロジェクトリーダーや主任、係長などというようなまとめる立場となった場合や、課長・部長職へ昇進するというように、ひとつの仕事に対して技能や能力を身に着け、全体的に見渡せる立場へ昇進するケースは、特定のスキルをより深めるキャリアアップの代表例です。
自分にできることを増やしていくキャリアアップ
スキルを身に着けることはもちろんですが、それを発展させ自分にできることをどんどん増やしていくこともキャリアアップのひとつです。例えば、培ってきたスキルを活かし、その職場でコンサルティングや部下のマネジメントに携わり、人材育成を行うというような立場へ転身することもこちらのケースに当たります。
また、そのスキルを携えて他社へ転職し、新しい働き方を模索する方法も「自分にできることを増やしていくキャリアアップ」といえるでしょう。
ちょっと異色のキャリアアップといえますが、派遣会社に登録した人が、派遣先でいろいろな経験を重ねることもこのケースに当たると考えることができます。
キャリアアップ助成金を活用して、お得に人材を獲得しよう
「キャリアアップ」というと、どうしても転職して自分ができることを増やす意味合いにとられることがあります。ただし、従業員を抱える企業にとっては、スキルを持った人材の流出につながるため、向上心を満たすための転職はどうしても避けたいものです。また、労務費をはじめとした経費の節減のために繁忙期だけ派遣社員を臨時雇用するというような企業もあるかもしれません。
いずれの場合も、会社にとっては人的損失も大きいですし、教育にかかる費用だけがいたずらに消費されてしまう状況も打開しなければいけない状況にあるといえます。
その問題を解消するため、「雇用」によって企業が受けられる「キャリアアップ助成金」というものが存在しています。
キャリアアップ助成金とは
厚生労働省が管轄する企業のための助成金です。有期契約労働者やパートタイマーなどの短時間労働者、派遣労働者など、いわば非正規雇用に当たる労働者に対し、キャリアアップを促すために正社員登用や処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して助成金を支給する制度です。
これによって、企業の戦力として教育を促すことが正当化されますし、人材の流出を防ぐことにもつながります。それと同時に、従事する側としては非正規雇用という不安定な働き方から脱却できるという、雇用する側・働く側双方のメリットが生まれます。
助成金の内容ですが、その企業が取り組む処遇改善の方法によりいくつかのコースに分かれています。その中でも正社員化コースの場合、有期雇用の社員を正規雇用労働者(正社員)として迎え入れた場合に1人当たり最大72万円(※中小企業による申請でなおかつ生産性要件を満たした場合)までの助成金が支給されます。事業所の規模によっても支給額が変わりますが、1年度1事業所当たり20名の雇用に対しこの助成金を申請できるので、会社にとっても大きなプラスになることでしょう。
キャリアアップ助成金には先述の「正社員化コース」のほか、「短時間労働者労働時間延長コース」や社会保険の適用拡大に対して支給される「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」など7つのコースがあります。
キャリアアップ助成金を受ける要件
キャリアアップ助成金は「支給対象事業主」であることが大前提となります。先に挙げた7つの各コースの支給対象事業主の要件も各々で存在しますが、ここでは大前提となる支給対象要件のみをピックアップします。
・雇用保険適用事業所の事業主であること
・キャリアアップ管理者を配置している事業主であること
・支給対象の労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し管轄する労働局長の認定を受けた事業主であること
・該当コースの措置に関する対象労働者に対する賃金の支払い状況を明らかにできる書類を整備している事業主であること
・キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んでいること
雇用保険に加入した事業所であり、キャリアアップに関する担当者を配置していること、また申請対象者に対するキャリアアップ計画を組み、その計画に沿った取り組みができていることが前提だととらえましょう。また、給与状況などを明らかにできる書類などもそろえておくことも大切です。この要件とキャリアアップ助成金を受給する各コースの条件に合致することが必要になります。
キャリアアップ計画書の書き方
キャリアアップ助成金を申請する大前提としてキャリアアップ計画書を作成、管轄の労働局へ提出し認定を受ける必要があります。この計画書は、有期契約労働者などキャリアアップ助成金の申請対象となる雇用に対する、キャリアアップに向けた取り組み(対象者や目標、達成までの目標とする期間や達成に向けて企業としてどのような取り組みを行うか)をイメージし記載するものです。
キャリアアップ計画作成に関しては3年以上5年以内の計画期間を決める必要があります。この期間でどのような取り組みを行い、対象となる人材をどのようなキャリアアップに導くかをまとめる必要があります。
また、この計画を遂行するためには労働組合などに諮り、計画対象者はもちろんのこと無期雇用労働者(正社員)などの意見も反映されるよう意見聴取の場を設けることも求められています。
様式は厚生労働省のサイトからダウンロード可能です。平成31年4月に発行された「キャリアアップ助成金」に関するパンフレットには様式の記載例もあります。記載例によると、計画期間内に講じる措置(コースの選択)は複数記載でも構いません。ただし、その選択したコースごとに対象者や目標などを個別に記載することになります。
単純に非正規雇用社員を正社員登用することは避けるべきです。一例となりますが、「正社員コース」の場合のポイントとして、対象となる非正規雇用社員を、時間をかけて何らかのキャリアを積ませたのちに正社員登用を検討するというような計画書のストーリーを作成することが大切です。どのくらいの時間か、どんなキャリアを積ませるかを検討することも大切です。
まとめ
キャリアアップにはいろいろな方法があります。社員個人としては自分自身の力を試すチャンスとなりますが、時として企業にとっては、転職などによる個人のキャリアアップが痛手になる場合もあります。
社員の働き方を尊重しながら、職場の中でキャリアアップを図る環境を整え、長く働いてもらえるよう工夫することが必要です。「キャリアアップ助成金」は良質な人材の雇用を促進するためのものです。上手に利用することで会社の生産性を向上も視野に入れることができます。