人間関係や仕事の内容、生活とのバランスなど、職場にはストレスの要因になりうるものがたくさん潜んでいます。過労による自殺などが問題になる中、各企業や団体にとっても、従業員のメンタルヘルスを守ることが重要課題となりました。
そこで今注目を集めているのが、働く人の心の悩みに寄り添い、共に問題解決を目指す「産業カウンセラー」の仕事です。本記事では、産業カウンセラーの仕事内容や待遇についてわかりやすく解説し、将来産業カウンセラーを目指す方に向けて、適正や関連資格、学習方法をご紹介します。
産業カウンセラーの仕事内容
産業カウンセラーという職業名は知っていても、その具体的な仕事内容はあまり知らないという方も多いかもしれません。そこでまずは、産業カウンセラーの担当する主な業務、活躍の場と1日のスケジュール例をご紹介します。
産業カウンセラーの主な仕事
産業カウンセラーの仕事のうちメインとなるのは、企業や各種団体に所属する人々のメンタルヘルス対策支援です。仕事をする上では、業務内容に不安や不満を抱いたり、人間関係の問題によってストレスを抱えたりと、心に負担がかかることもしばしばあります。産業カウンセラーは、そのように精神的な問題を抱える人と向き合い、話に耳を傾けます。そして、その人自身が問題を解決し、健やかに業務を行えるように支援するのです。
また産業カウンセラーは、キャリアに関するアドバイスを行うこともあります。今後の進路に悩む人からの相談を受け、共に将来設計を行います。
産業カウンセラーが扱うのは、個人の問題にとどまりません。たとえば、社内でハラスメント行為が横行している場合には、組織全体の改革や再発防止のため、管理職との議論や従業員への研修も行うことになります。
産業カウンセラーが活躍する場所
産業カウンセラーが働く場所として、一番にイメージするのは民間企業ではないでしょうか。確かに、多くの産業カウンセラーが民間企業で働いていますが、産業カウンセラーの活躍の場はほかにもあります。たとえば、学校や役所などの公的機関、病院などの医療・福祉施設、また非営利団体においても、産業カウンセラーが活躍しています。産業カウンセラーは、「働く人」のいる場所であれば、どのような場所でも活躍できる職業です。
今の日本では、産業カウンセラーだけで生計を立てている人は少ないと言われています。医療機関など、ほかの職場で働きながら、非常勤として短時間だけ企業での勤務を行うカウンセラーもいます。また民間企業では、管理職や人事担当が産業カウンセラーの資格を取得し、両業務を兼任していることも少なくないようです。
産業カウンセラーの1日
例として、民間企業で働く産業カウンセラーの1日のスケジュールをご紹介します。
9:00 出勤
緊急の予約が入っていないか確認します。
10:30 カウンセリング(1)
従業員へのカウンセリングを行います。
12:00 カウンセリング(2)
多くの従業員の手が空く昼休みは、特にカウンセリングの予約が入りやすい時間帯です。ときには、昼休みの時間帯に複数のカウンセリング予約が入ることもあります。
14:30 産業医に連絡
カウンセリングの結果、医療につなげる必要があると思われるケースについて、産業医に連絡を入れます。
16:00 カウンセリング(3)
カウンセリングの数や時間帯は、日によって異なります。
17:00 退勤
定時後にカウンセリングの予約が入ることもあります。その場合には定時以降でもカウンセリング室を開室し、対応します。もちろん、企業からの残業手当などは一般の従業員と同様に用意されています。
産業カウンセラーの待遇
続いては、産業カウンセラーの待遇、そしてこれからの社会における需要の見込みについて解説します。将来、産業カウンセラーを目指そうと考えている方も、ぜひ参考にしてください。
産業カウンセラーの年収
先程述べたように、産業カウンセラーと一口に言っても、その勤務先や雇用形態は人によってさまざまです。
正社員として民間企業に雇用された場合の年収は一般的な従業員と同じく、中小企業であれば200〜400万円、大企業であれば500万円以上になるとされています。パートタイム社員や派遣社員として雇用される場合、時給は1500〜1800円ほどに設定されることが多いでしょう。
産業カウンセラーという肩書だけで独立開業するのは困難です。もし独立開業を目指すなら、医療機関における臨床心理士としての業務など、ほかの仕事と両立しながら知識と経験を蓄積していくのがよいでしょう。
産業カウンセラーの需要
近年は、働く人のストレスや精神的負担が大きな社会問題となり、従業員のメンタルヘルスマネジメントは、雇用側にとってきわめて重要な課題となっています。ハラスメント対策など、組織全体の健全化も求められるようになりました。そのような状況の中、政府が進める働き方改革にも後押しされて、今後も産業カウンセラーの需要は継続するでしょう。
産業カウンセラーになるには
最後に、産業カウンセラーを目指す方に向けて、この仕事の適性や主な関連資格、専門知識の学び方をご紹介します。
産業カウンセラーの適性
産業カウンセラーに向いているのは、何よりもまず、人に興味を持てる人です。それに加えて、クライアントの話をじっくりと聞くことができる力や、自分の考えを適切な言葉で表現できる力も求められます。
さらに産業カウンセラーには、労働に関する専門的な知識があることが求められます。したがって、当該分野への興味があるとなおよいでしょう。
産業カウンセラーの資格・学び方
産業カウンセラーとして働くにあたって多くの人が取得しているのは、一般社団法人日本産業カウンセラー協会が認定する「産業カウンセラー」の資格です。
この資格を取得するためには、同協会が開催する講座を修了するか、4年制大学または大学院研究科で、心理学またはそれに隣接する科学系を専攻・修了する必要があります。その上で学科試験と実技試験を受験し、合格すれば晴れて資格取得となります。
同協会が開催する講座は、通学か通信のどちらかを選択できるので、スクールに通うのが難しい方にとっても安心です。受講期間には「10か月コース」と「6か月コース」の2種類があるので、スケジュールに合わせて選択しましょう。
まとめ
産業カウンセラーは、企業で働く人の精神的な問題に寄り添い、問題解決に向かって共に歩む職業です。働く人のストレスが大きな問題となる中、働き方改革の波に押されて、今後も社会での需要があり続ける仕事だと言えるでしょう。
産業カウンセラーには、傾聴力と表現力に加えて、労使関係に関する知識も求められます。将来産業カウンセラーを目指す方は、資格の取得も視野に入れて、専門知識の獲得に向けて行動しましょう。