歌舞伎に関して質問を受けたとき、基本的なことをしっかりと伝えられる自信はありますか?
人に何かを伝えるとき、いかに正しい基本知識が大切か身にしみるものです。
自信を持って答えられると、コミュニケーションをスムーズにとることができ、何より日本の文化により関心を持ってもらえます。
また、コミュニケーションがうまくいくと、双方が満足感を得ることもできます。
歌舞伎が誕生した背景や歴史、演目の分類、江戸と上方の違いなど、歌舞伎の基本的な知識をご紹介していきます。
歌舞伎が誕生した背景・歴史とは
まず歌舞伎という芸能が誕生した背景とその歴史をご紹介します。
歌舞伎はどのように誕生したの?歌舞伎という名前の由来は?
江戸時代初期、常識はずれのエキセントリックな服装や行動で街に登場し、人々の注目を浴びることを「傾く(かぶく)」と表現されました。
そして、こういった行いをする人たちは「かぶき者(かぶきもの)」と呼ばれることになります。
その後、このかぶき者の個性的な服装や動きを取り入れた「かぶき踊り」が大流行し、現代に伝わる歌舞伎の起源になったのです。
歌舞伎の独特の動きやきらびやかな衣装、顔に施したカラフルな隈取り(くまどり)などは、この「かぶき者」のファッション・行動が根源となっており、現代の流行の生まれ方に通じるものがあります。
歌舞伎の演者は女性→少年→成年男子と変化
かぶき踊りを最初に始めたのは出雲大社の巫女、阿国(おくに)と言われています。
出雲大社への寄付集めに全国をまわっていた阿国一行が、客の歓心を得るためにかぶき踊りを行ったのです。
阿国がかぶき者のような男装で歌って踊る姿は評判となり、1603 年には京都で大変な人気だったという記録が残っています。
その評判は江戸にも伝わり、たくさんのかぶき踊り集団が現れました。
しかし、女性による歌舞伎、「女歌舞伎」は演出がきわどいものが多かったため、1629年に江戸幕府が女歌舞伎を禁止。その後男性が演じるようになり現代の歌舞伎へとつながっていきます。
男性の歌舞伎も、当初は12~18歳くらいの美少年による「若衆歌舞伎(わかしゅかぶき)」からスタートしましたが、若衆歌舞伎も風紀上の問題から江戸幕府により禁じられ、現在のように成人した男性が演じる「野郎歌舞伎」となります。
そして現代の歌舞伎へ
明治時代に入ると歌舞伎の文化的地位は向上し、明治天皇が観劇された記録も残っています。
明治22年11月に、現在の東京都中央区南部に位置する木挽町に初代の歌舞伎座が誕生。大正時代には、海外の作風をプラスした書き下ろし作品「新歌舞伎」の上演も開始し、新たな展開が広がりました。
歌舞伎座は、大正10年に漏電によって焼失、再建後も第二世界大戦の空襲によって再び焼失してしまいますが、昭和26年にこれを再び再建し、昭和61年には最新の舞台技術を駆使した「スーパー歌舞伎」の登場によって今までとは違った新しいファンを獲得。その後、建物の老朽化による建て替えを経て、現在の第五期歌舞伎座となっています。
歌舞伎の殿堂であるこの歌舞伎座を中心として、歌舞伎は日本を代表する伝統芸能となりました。
歌舞伎の演目は大きく分けて4種類に分けられる
一口に歌舞伎と言っても、その演目のジャンルは、「時代物」、「世話物」、「所作事」、「新歌舞伎」の4つに大別され、好みの分かれるところです。
自分の好きな演目が見つかると、歌舞伎鑑賞はますます楽しくなりますのでしっかりと理解しておきましょう。
「時代物」は当時の時代劇
時代物と言っても、歌舞伎が発展した江戸時代当時の時代物ですから、平安・鎌倉・室町時代を舞台にした演目です。
江戸時代に実際にあった事件などは、時代を変えたり名前を変えたりしています。
源義経が登場する「勧進帳(かんじんちょう)」や「義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)」、「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」が代表的な作品です。
「世話物」は現在のドラマに近い?
世話物(せわもの)は江戸時代の人にとっての現代劇。当時の世間を騒がせた事件が題材になっている作品が多くなっています。
「曽根崎心中(そねざきしんじゅう)」や「四谷怪談」という作品は非常に有名で、耳にしたことのある方も多いのではないでしょうか。
世話物は現代のワイドショーやドラマに通じるものがあります。
「所作事」は踊りが中心
所作事(しょさごと)は踊りが中心の演目です。鏡獅子や藤娘、娘道成寺など、豪華な衣装も特徴となっており、
能や狂言が題材の舞踏劇から一人の踊り手が異なる役柄を演じるものまで、内容は多彩です。
「狂鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」や「鷺娘(さぎむすめ)」などが人気の作品です。
明治中期以降の書き下ろしは「新歌舞伎」
明治中期以降、外部の劇作家などによって書き下ろされた演目は「新歌舞伎」と呼ばれます。
外部の演劇の影響を受けた作品が多いのが特徴で、「番町皿屋敷(ばんちょうさらやしき)」などが有名です。
江戸と上方で大きく開花した歌舞伎文化
江戸時代の中期以降、歌舞伎は江戸の「荒事(あらごと)」、京都の「和事(わごと)」と系統が大きく分かれ、それぞれ大きく花開いていきます。
このふたつの大きな流れの特徴もしっかり覚えておきましょう。
江戸で人気を博した「荒事」は勧善懲悪のヒーロー物
荒々しく力強い演技が荒事(あらごと)の特徴です。豪快な演技に合わせ、顔の血管・筋を大げさに描く化粧の「隈取り」をしているのも大きな特徴です。
ヒーローが悪者を退治する勧善懲悪の単純明快なストーリーが中心で、「助六」がその典型です。
上方で人気を博した「和事」は色男が主役
女性のようにはんなりした色男が登場し、柔らかで優美な演技で観客を魅了するのが和事(わごと)の特徴です。
「曽根崎心中」のように、ストーリーも恋愛メインの人間ドラマが中心になります。
「荒事」と「和事」は今も健在
「荒事」と「和事」の流れは現代にも続き、「荒事」は市川家、「和事」は坂田家と、ともに歌舞伎の名門のお家芸として今も演じられています。
まとめ
歌舞伎の誕生の背景や歴史、演目の分類、江戸と上方の違いについてご理解いただけましたでしょうか。
歌舞伎の成り立ちは、現代の流行の発端に非常に近いです。
4種の演目の違いを理解すると、歌舞伎が現代の演劇やドラマに密接な関係があることがわかるはずです。
また、市川家に代表される江戸の「荒事」、坂田家に代表される上方の「和事」の違いもしっかり理解しておきましょう。
独特のメイクや衣装・動きは言葉が通じなくとも伝わりやすく、歌舞伎は海外でも人気の高い日本の代表的な伝統芸能です。
基本を知れば、これまでと違う目で歌舞伎・歌舞伎役者を見られるようになり、あなたの知識・教養の幅が広がっていることに気づくでしょう。