<修了生インタビュー> 日本語教師養成講座修了生、佐藤楓さんにお話をお伺いしました。
大学では教育学部で日本語学を専攻し、教員免許を取得。在学中に日本語の奥深さを知り、大学院で研究を続けるか悩むが、日本語を教える日本語教師として経験を積みたいと考え、大学卒業後の2022年、アルバイトをしながらヒューマンアカデミーの日本語教師養成講座を受講。講座修了後、日本語学校に勤務し、2024年より東京韓国学校で非常勤講師としても勤務開始。日本語学校では成人(留学生や生活者)へ日本語を、東京韓国学校では小学5年生に日本語で国語を教えている。
国語教員から日本語教師へ進路変更
日本語教師を志したきっかけを教えてください
私は小学生の頃から学校の先生になるのが夢で、大学は教育学部の国語専修に進みました。国語専修の中でも国語教育学、国文学、漢文学など専門領域が分かれており、私が専攻したのは日本語学。日本語を対象に言語学を研究する学問です。日本語学を学ぶうちに日本語の面白さと奥深さにふれ、卒業後は大学院で本格的に研究しようか迷ったのですが、「やっぱり仕事はしたいな」という気持ちがありました。考えた末に、日本語を研究しながら自分も学ぶことができ、先生として人に教えることもできる仕事として、日本語教師はぴったりだと思ったのです。
大学4年生の就職活動のとき、同級生たちは教員採用試験に向けて勉強を始めましたが、私は教育実習を終えてから進路を決めようと思い、教採は受けませんでした。教育実習はとても楽しかったのですが、ちょうどコロナ禍で学校現場が混乱していて、このバタバタな時期に先生になっても、違う対応に終始しそうな気がしました。そこで一気に方向を変え、日本語教師を目指すことにしました。
ー学校の国語の先生ではなく日本語教師になるという進路変更に対して、ご両親の反対などはありませんでしたか?
まったくなかったです。「自分が好きなこと、やりたいことをやりなさい」というタイプの両親だったので、「いいんじゃない」と。「日本語教師の勉強をするための学費は出してあげる」と言ってくれたので、学費は親に援助してもらい、卒業後はアルバイトをしながら日本語教師の勉強を始めました。
いい仲間に出会えた教育実習が一番の思い出
ヒューマンアカデミーの日本語教師養成講座を選んだ理由は?
最初はインターネットで調べたのですが、ヒューマンアカデミーは大手で知名度も高いという安心感がありました。日本語能力検定試験の合格までサポート体制が充実しているのも、「ここがいいな」と思った理由の一つです。
決め手になったのは、友人のお父様で日本語教育に携わっている方に相談したこと。「ヒューマンはいいよ」とお勧めされたので、決めました。
--実際に勉強を始めてみて、どうでしたか?
入学当初もコロナ禍がまだ続いていて、私は通学授業ではなく、eラーニングとオンラインライブ授業で学びました。基本は自宅でのeラーニングで、授業はオンライン、テストのときは登校するという形です。
「通学授業の方が習慣になるからちゃんと勉強するだろうな」と思っていたのですが、意外とeラーニング学習の方が自分に合っていました。いつでも自分の都合のよい時間に勉強できるので、アルバイトと掛け持ちしていた私にとっては、eラーニングの方がスケジュールを組むのが楽でしたね。
日本語教師養成講座を受講中、印象に残っているエピソードはありますか?
特に思い出に残っているのは、教育実習です。教育実習は対面で行うことができたので、同時期に受講をスタートした人たちと会えたことが、まず嬉しかった。実習グループでは私が一番年下で、あとは30代~40代の方もいれば、定年後に勉強を始めた方もいて、予想以上に年齢層が幅広かったです。
教育実習で気づいたのが、「大学で4年間学んだことは外国人に日本語を教えるときにも使えるな」ということ。例えば、板書の書き方とか、授業中の教室内での動き方とか、他のメンバーは教員経験がないので、そうした授業のコツを教えてあげるとすごく喜ばれ、頼りにされたので、私自身も「自分の選択は間違っていなかったな」と実感できて嬉しかったです。
また、私は社会人経験がないので、社会人や生活者向けの授業はわからないことも多く難しかったのですが、他のメンバーから「社内の電話を取るときは、こういう言い回しをする」といった知識を教えてもらえて、すごく助かりました。そうやってお互いに助け合い、補いながら一緒に授業を作っていったことが、一番の思い出です。実習グループのメンバーとは今も連絡を取り合っていて、この仲間と出会えたのは、とてもよかったです。
ーそのほか、ヒューマンアカデミーで学んでよかったと思うことがあれば、教えてください
日本語教師になって実際に日本語学校に勤務し始めた頃、先輩や同僚の先生にヒューマンの卒業生が多いことを知りました。「私もヒューマンで〇〇先生の授業を受けたよ」と共通の話題で仲良くなれますし、「同じ学校で学んだ人がこんなにたくさんいるんだ」と思うと、すごく心強かったです。
韓国人小学生に日本の「国語」を教える
ー現在は日本語教師として、日本語学校だけでなく、在日韓国人や日本に駐在する韓国人の子弟が通う韓国学校でも日本語を教えていらっしゃるそうですね?
はい。小学五年生と六年生の児童に、日本語の「国語」を教えています。日本の公立学校で使用しているのと同じ教科書を使い、教える内容も日本の小学生と同じです。小学校の国語の教員免許も持っているし、子どもたちに教える経験をどこかでしておきたいという思いがあり、2024年4月から非常勤講師として働き始めました。
日本語学校と韓国学校では、どんな違いがありますか?
日本語学校の生徒は大人ですが、韓国学校では小学生の子どもが相手です。大人は日本語がわからないだけで常識はわきまえていますが、子どもの場合は「授業中は席を立たない」「廊下は走らない」といったことも指導しなくてはいけません。マナーや常識的なことにプラスして日本語も教えるとなると、どこからどう教えたらいいかと迷う部分もあります。英語や韓国語は絶対に使わず、日本語だけで接すると決めて指導していますが、なかなか難しいですね。
難しい点をもう一つ挙げると、韓国学校の場合、生徒の日本語レベルがまちまちなんです。日本で生まれ育ち、日本人と変わらないくらい日本語ができる子もいれば、ほとんど日本語ができない子や、会話はできるけど読み書きが苦手な子もいる。私が1回の授業で教えている子どもは20名ほどですが、そのうちの3割、6人くらいは日本語がまったくわからないか、読み書きが完璧ではない子です。日本語レベルに差のある子どもたちに、いかにして日本の学校の「国語」教科を教えていくか、という点では苦労していて、まだ模索中です。
ー大変な反面、韓国学校で小学生に日本語を教える面白さは?
やっぱり子どもって頭が柔らかいというか、私が考えてもいないような視点からの質問が飛び出してくるんです。例えば、動物の固有種について「日本にしかいない種類の動物を『日本の固有種』と言います」と説明すると、「でも、動物園にいた気がします」「絶滅したら本当に一匹もいないんですか?」なんて質問されたりする。日本語学校の大人の学生だと、文法的なことや具体的な使用場面に関する質問が多いのですが、子どもは個別のトピックに反応して、純粋な疑問を聞いてくるんです。しかも、日本の小学生に比べて発言が活発なので、「子どもはこういうことに疑問を持つんだ」という発見があったりして、面白いです。
将来は日本語教材を作る側の仕事にも挑戦したい
ー将来の夢や目標はなんですか?
日本語教師として、できる限り教壇に立っていたいという思いはあるのですが、最近ちょっと気になっているのは、日本語教育の本や教科書の編集です。日本語の教材を作る仕事も経験してみたいと考えています。そのためには、実際に教えた経験がないとできないので、当面の間は日本語教師として、子どもから大人までいろんな人に教えるキャリアを積んでいきたいと思っています。海外で外国人に日本語を教えるという経験もあれば絶対にプラスになると思うので、チャンスがあれば挑戦してみたいですね。
―最後に、日本語教師養成講座に興味を持っている人や、これから日本語教師を目指す人たちへのメッセージやアドバイスをお願いします
日本語教師の魅力として、他の先生方はよく「日本と外国の架け橋になれる素敵な仕事です」とおっしゃいます。私もまったく同感ですが、それ以上に、日本語学という面から見ると、こんなに面白くて有益な仕事はないと感じています。日本人から見ている日本語って偏っていて、生まれたときから慣れ親しんできた母語だからこそ気づけないことも多いんです。それが、外国人生徒からの質問をきっかけに日本語の新しい魅力や奥深さに気づいたり、日本語の構造や法則について考えを深めていけたりする。日本語オタクの私からすると、こんなに面白い仕事はないと思っています。
人に教えるって難しいことですけど、あまり肩ひじ張らずに「みんなで考える」というスタンスで授業に臨むのがいいかもしれません。私は授業でよく「なぜ、こういう風に言うと思う?」と学生に聞いて、一緒に考えるんです。すると、私もわからなかったことに対して、母語が違う学生から意外な解釈が出てきたりします。日本語の勉強には終わりがなく、自分も学生と一緒に新しい知識を吸収しながら生きる。本当に奥が深く、追求しがいのある仕事だと思います。