後進を育ていかなければ、会社は繁栄しません。また、キャリアアップに向けて研鑽してもらうにはどのようなプロセスをたどる必要があるのか、上司としては頭を悩めるところではないでしょうか。ここでは、部下を育成することの意義や育成計画書の作成方法、それに伴う育成や指導に関するポイントについてまとめてまいります。部下を育成することで自分自身の気づきにもつながります。率先して後進の指導を模索していきましょう。
なぜ部下の育成が必要なのか?
毎年数名の新人や中途入社の人材が入社することでしょう。その中には自己都合を中心としたなんらかの理由で退職する人も少なくありません。
趣向と職場とのミスマッチが指摘されることもありますが、新人社員を退職に追い込むケースとして「部下の育成がままならなかった」ということも考えられます。
後進のモチベーションを向上させるのも、芽を摘み取ることも上司のさじ加減に左右されます。これを踏まえて「なぜ部下の育成が必要なのか」について考えていきましょう。
将来的な人材確保のため
上司自身も永遠に「部下の上司」でいるわけにはいきません。人事異動のほか突然の部署解体、もちろん定年退職だけではなく、自己転身による退職だって考えられるでしょう。この時、残された部下が何もできなければ、それこそ会社としては「事業効率の低下の要因」として部下をとらえるしかなくなります。
育成をすることで、現場の第一線で働ける社員になってもらうことが最優先事項となるでしょう。また、上司の仕事を少しでも引き継いでもらい、既存の仕事にとらわれない新しい仕事を生み出してもらうための人材を育てることが大きな狙いとなります。
会社自体の繁栄をもくろみ、業績を右肩上がりにするには「部下の育成」は必要な行動です。
上司自身の仕事スキルを高めるため
部下を育てることによって、部下ができる仕事の範囲や視野を広めてあげることできます。これによって、部下に任せられる仕事も出てくることでしょう。
このことで上司は「自分の仕事が一つ減った」ということではなく、上司自身も自分の新たな業務を模索する必要が生じます。新たなプロジェクトの立ち上げや企画作成というような、上司だからやらねばいけない仕事に専念することもできるようになります。
これで、上司自身の能力開発へつなげることができるうえ、会社の繁栄に寄与できる人材としてアピールできる切り札にもつながるでしょう。
部下を育てたこと、上司自身も会社のために模索し形にできたことが会社に認められれば、部下・上司ともに社内評価を高めることにもつながります。
部下の育成の前にはしっかりと計画を立てよう
子育てを思い浮かべてみましょう。新生児に「生活のキホン」を教えることはまずもって無理でしょう。年齢に応じた生活習慣や勉強を教えていくというプロセスがあったはずです。
会社でも同様、新人社員に基礎の教養が身についていたとしても、会社の業績を上げるための「事業方針」を理解してもらうまではとても難しいことといえます。
インターンシップの参加や初任研修などを終えたからといって育成期間が終了しているとはいえません。
「人材育成計画書」を作成し、部下の入社年数に応じた研修フロー作成やその確認、フォローアップを計画的に行う必要があります。
人材育成計画書とは
人材育成計画書とは、企業によっては「OJT(On-the-Job Training)計画書」と呼ぶところもあります。現場で実際の業務を通じて上司や先輩が部下の育成を目指して行う教育訓練のための計画書を指しています。
OJTといえば、かつては新入社員に向けた訓練と位置付けられていましたが、中長期的に「目標に達しているか、これからの目標達成のために自分自身はどのようなスキルを身に着けるべきか」を上司と部下で確認していくことが推奨されるようにもなりました。
このような理由から「人材育成計画書」を作成し、部下の現在の状況や過去との比較、将来(未来)のビジョンをかなえるための目標設定を細やかに確認していくことが重視されています。
上司は、人材育成計画書をお互いに確認しながら、良い人材に育てるための指導を行います。
人材育成計画書の作り方
人材育成計画書の作成にはいくつかのステップを踏む必要があります。順を追って説明してまいります。
・①部下に身に着けてほしいスキルを提示し、設定の基礎を作る
入社時に挙げた部下の希望などを踏まえ、社員にはどのようなスキルを身に着けてほしいかリストアップをしましょう。
目標1(入社1年目):業務内容を理解し、上司や先輩の助けを借りながら業務を遂行できる
目標2(2年目~3年目):自分の考えで業務を遂行できる
目標3(3年目~5年目):後輩への指導を行える/リーダーとしてチームをまとめることができる
というように、社員個人があるべき目標を掲げ、部下の状況に応じた目標設定を掲げていくことが望ましいでしょう。中長期的にステップアップできるよう、その先を見据えた目標を定めることで人望を伝えるとともに、部下のモチベーションも高めることができます。
・②計画に対し、現在の状況はどうか振り返り、部下の現状を把握する
先ほど作り上げた目標設定の基礎に部下の現状を照らし合わせてみましょう。入社年数とその目標にマッチしているか、もし目標達成とはかけ離れている状況であれば、目標自体の練り直しや、現状での着地点の設定をすることも必要です。
・③育成のための理想的なスキルを重ね合わせ、計画を策定する
先に掲げた目標を達成するために部下が身に着けておくべきスキルをリストアップします。例えば、TOEICのスコア取得を目指してほしい、取引に必要な国家資格を取得してほしいというようなところでもよいでしょう。また入社年次に合わせて、昇任・昇給試験受験の条件を整えてあげることでも構いません。一人の視点では行き過ぎた指導になる可能性や見解が偏ってしまうため、複数名でディスカッションをすることをおすすめします。目標とスキル(資格など)のバランスを考慮し、部下にとってハードルが高くならないかといった点も確認していきましょう。
・④人事・経営側がそれをチェックする
その部署でまとめ上げた目標やスキルは、人事や経営陣にもチェックしてもらうことが無難です。厳しい目標を掲げていないか、会社の経営方針に背くものになっていないかチェックをかけてもらうことで、部下への指導が効率よくできるようにもなります。
人事評価システムなどにこれらの指標を組み込んでもらうことも一案でしょう。
部下の育成・指導をする際のポイント
単純に、上司が掲げた目標や取得スキルを押し付けるだけではプレッシャーになります。モチベーションを保ちながら、仕事も自己の目標達成への研鑽も両立してもらわなければいけません。ここで、部下を育成する際の指導ポイントをまとめてまいります。
部下の目標設定を促す
上司として、部下に求めるスキルと達成してほしい目標は必ず開示します。ここで上司による育成項目もつまびらかにしたうえで、部下個人の目標設定を促しましょう。
上司と部下が話し合いのうえで現状を確認し、半年後と1年後にどうありたいかを見据え、育成プログラムを作ることも一案です。
部下に仕事を与える
部下に仕事を与えるといっても、指示を出すだけではいけません。自ら問題を見つけ、それに向かってどのようなアイディアを仕事に活かすのかを考えられる部下を育てていく必要があります。答えが出ない部下に対しては、ヒントを与えて答えを引き出すこともよいでしょう。また、部下に任せる仕事をいくつか作り、割り当てることで部下にも自信を持たせることも必要です。
部下のフォローと振り返り
かつては「失敗が成功を生む」としてわざと失敗をさせる風潮がありましたが、モチベーションの問題もあるため、得策ではないと考えられることもあります。ただ、過去の失敗事例や、失敗を生むかもしれない事案はあらかじめ指導し、失敗しないためにはどのようにふるまわなければいけないのかを考えてもらうように促しましょう。
業務のうえでは報告をこまめに受け、業務の方向性を逐次確認していくことも必要です。失敗の結果が見えているようであれば、上司による軌道修正などのフォローも必要です。
万が一部下が失敗してしまった場合は、責任のなすりつけはもちろん、放置は厳禁です。育成指導する上司がきちんとフォローに入りましょう。また振り返りを経て、どうして失敗してしまったかの気づきを与えることも必要です。また、改善策なども部下に考えてもらうことで、再びのチャンスをものにすることができるようになります。
ほめ方と叱り方に注意しよう
ほめられると誰もが自信につなげることができるようになります。また、自分を理解してもらえたというような自己肯定感が生まれ、仕事へのモチベーションも高まります。ただ「いいね」だけではなく、具体的な事実を挙げてほめるようにするとよいでしょう。
また、叱る時は部下が納得できるように叱る必要があります。頭ごなしに叱っては、部下も「時が過ぎるのを待つだけ」という感覚に陥り、なんの得も生まれません。
はじめは冷静に事実を指摘し、相手の言い分に耳を傾けましょう。逃げ道をふさぐこともいけませんが、言い訳に過ぎない場合は、これも指摘していきましょう。またアドバイスを与え「改善点」を考えてもらうきっかけを与えることも検討していきましょう。
まとめ
部下の育成にはいくつかのプロセスが必要であることがわかりました。また、現状を把握するだけではなく、事前に策定した中長期的な達成度合いを提示し、それに向けた自己目標などを定めるよう促すことも大切です。
若い社員の場合、自己研鑽と仕事の両立は時として難しいこともありますが、上司も通ってきた道です。アドバイスを与えながら部下のオリジナリティーを引き出すことも上司の務めといえるでしょう。