「アニメ!」
「アニメ!」
これは、留学生に日本語が学習し始めたきっかけを尋ねた時の反応です。
「じゃあ、アニメがきっかけで日本語を学習し始めた人、手をあげてください。」
すると、7~8割くらいの学生が手をあげます・・・
最近の留学生が、いかにアニメから影響を受けているかがわかります。
今回は日本のアニメの影響についてお伝えします。
文:志賀玲子 講師
夫の赴任地からの帰国をきっかけに専業主婦から日本語教師に。
都内日本語学校にて数年間勤務後、大学院へ進学。大学院修了後、日本語教師養成講座講師、大学講師に。
現在、大学にて留学生教育の他、日本の学生への初年次教育及び日本語教授法等の科目を担当。
外国語習得の秘訣は?
「アニメを見て日本語をきいているうちに、だんだん日本語がわかるようになった」
これは、大学に入るまでは独学で日本語を勉強していたという学生の言葉。交換留学生として来日したこの学生は、とても流暢に日本語を話します。
「アニメを見ているとき、下の字幕を読んでいると絵の動きをじっくり追えなくなるのが嫌で・・・・
直接音声が聴きとれるようになりたいと思って、正式に日本語を勉強し始めた。」
これは、正規留学生の言葉です。かなりスムーズに会話ができ、こなれた表現も使いこなします。
最近の留学生に日本語を学び始めた理由を尋ねると、かなりの割合の人がアニメをあげるのです。
幼少時から日本語を聞いていて慣れているためか、音声面で強い学生が多いことにも驚かされます。
もちろん人によりますが、驚くほどスムーズな話し方をする学生がいて驚愕することもしばしばあるのです。
外国語習得の秘訣は?
日本語教師として、また、一個人として、とても知りたい情報です・・・・。
マンガの影響
マンガの影響も大きいものとなっています。
以前、ヨーロッパから来ていた留学生が、あるスポーツのマンガについて語りだしました。
マンガ自体はその国の言語に翻訳されたものを読んでいたようです。
・・・で、その学生は、マンガの中に日本人の心を見たと言うのです。
こういうことです。
そのマンガのなかには、
「友だち」「みんなで」「いっしょに」
などという言葉が頻繁に登場するそうです。
団体スポーツを扱っているマンガなので特にそのような言葉が多いのでしょう。
その留学生曰く、その留学生の出身国は「個人主義」が強い国なので、たとえ団体スポーツであっても、「友だち」「みんなで」「いっしょに」という考え方があまり一般的ではないそうです。そのため、そういった言葉が使われることはあまりなく、すごく新鮮に感じたらしいんですね。このような体験から日本人の考え方や日本人そのものに興味をもち、日本語の勉強を始めるようになったとのこと。・・・ううむ、なるほど~
しかし、マンガからそこまでをつかんでしまうその学生の感性も、見上げたものですよね。
このように、学生が語ってくれる話から、日本語学習のきっかけとしてのアニメやマンガの存在が大きくなっていく様子を、私は現場にいて肌で感じています。
国際交流基金による調査結果
それを実際に証明してくれるものがありますので、皆さんにご紹介します。
2022年11月に発表された国際交流基金による調査結果です。
https://www.jpf.go.jp/j/about/press/2022/dl/2022-023-02.pdf?
国際交流基金は、3年に一度、海外での日本語教育事情について調査し公開しています。日本国内ではなく海外での日本語教育についての動向を知るために、とても貴重な資料となっています。
この中に、「日本語学習の目的・理由」を尋ねた項目があります。興味をおもちの方は是非ご覧ください。
さて、海外で日本語を学んでいる人は、どんな目的や理由で日本語学習をしているのでしょうか。
2021年の調査結果を見てみましょう。
選んだ人が多い項目から順に3つをあげると・・・
・日本語そのものへの興味 60.1%
・アニメ・マンガ・J-POP・ファッション等への関心 59.9%
・歴史・文学・芸術等への関心 47.9%
3年前の2018年にどうだったかというと・・・
・アニメ・マンガ・J-POP・ファッション等への関心 66.0%
・日本語そのものへの興味 61.4%
・歴史・文学・芸術等への関心 52.4%
3年前に比べると「アニメ・マンガ・J-POP・ファッション等への関心」を挙げた人が66%から60%に減ってはいるものの、それでも約6割の人がこうした日本のポップカルチャー等に興味をもって日本語を学んでいることがわかります。
(ちなみにこのアンケートは複数回答可なので、合計すると100%を超えています。)
約半数以上の人が、上の3つのことに関心があり、日本語学習の目的・理由として挙げていることについて、皆さんはどう思いますか。
日本語学習者の推移
さて、同じ調査の中に、日本語学習者の推移を示したグラフもあります。
国際交流基金の調べによると、2012年の3,985,669人までは、右肩上がりに日本語学習者が増えていった様子がわかります。その後、上下を繰り返し…2021年は、3,794,714人という数字が出ています。
・・・全体の数字を言われてもあまりピンときませんよね。
それでは、これはどうでしょう?
日本語学習者が多いところ・・・
1・中国 1,057,318人
2・インドネシア 711,732人
3・韓国 470,334人
4・オーストラリア 415,348人
5・タイ 183,957人
6・ベトナム 160,582人
7・米国 161,402人
8・台湾 143,632人
9・フィリピン 44,457人
10・マレーシア 38,129人
で、上位10の中で、2018年と比べて2021年に学習者が増えているところはどこかというと・・・
1位の中国、2位のインドネシア、4位のオーストラリアの3つです。
残りの7つは、残念ながら日本語学習者は減っていました。
1位の中国は、52,693人増えています。
さて、どのような人が増えていると思いますか。
とても興味深い結果が出てきました!!
この調査では、学習者が「教育段階別」に集計されています。
「初等教育」「中等教育」「高等教育」「学校教育以外」と分けられているのですが・・・
中国の学習者について、どの段階で学んでいる人が多いと思いますか?
実は、最も多いのは「高等教育」なのですが、2021年は2018年に比べて減少しているのです。「学校教育以外」も大幅に減少しています。
その中で3.7倍も増えたのが「中等教育」なんです!!
335,876人にもなり、全学習者の30%ほどを占めるようになりました。
この理由を知りたくありませんか。
前回2018年の調査においても既に「中等教育」の増加傾向が認められていました。そのことについて分析している文言を、国際交流基金のサイトから抜き出して示しますね。
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/2020/china.html
・・・教育段階別で見ると、中等において約7割増、学校教育以外で約2割増となっている。これは大学入試(高考)において、外国語の受験科目として日本語を選択する生徒が増加していること(漢字を共有していること、幼少期からアニメやマンガ等で親しみがあること、中学・高校6年間(場合によっては小学校から)での学習を対象とする英語に比べ、高校3年間のみを対象とするため出題範囲が想定的に狭いこと)、及び日中関係の良化や訪日旅行のブームによって趣味や教養として日本語を学習する層が増加していることが背景にあると思われる。
(下線は筆者による)
中国の中等教育における日本語学習者の増加
いわゆる大学入試のための共通テスト受験に際し、英語ではなく日本語が選択できるようになっていて、日本語を選択する高校生が増えているとのことです。これが、「中等教育」での日本語学習者増加につながっているということですね。
2018年にもその兆しが現れていたということですが、2021年の調査では、さらにその傾向が強まっていることがわかります。3.7倍ですから!
こうした現象は、やはり留学生から聞いて知っていました・・・
数年前に交換留学生として来ていたある学生は、大学受験に日本語を使う高校生向けの塾を経営していてかなりの収益をあげているという話をしてくれました。
とっても驚いたことを覚えていますが、時代の潮流をつかむ力に加え行動力が備わった学生だったのですね。
ちなみにその学生もアニメ好きでした。
中国の中等教育における日本語学習者の増加・・・・
漢字圏であるということも大きな要因ですが、幼少期からアニメやマンガなどに親しんでいいたということも理由となっていることは明らかなようです。
その後も末永く日本語を学んでくれると嬉しいですね。