「アサーティブコミュニケーション」という言葉を耳にしたことはありますか?
これは70年ほど前 にアメリカで生み出されたコミュニケーションスキルで、人種差別や女性の権利に対する運動などにおいて、どのようにして自己主張をするかを探る中で確立されていきました。
日本でも認知行動療法のトレーニングの一つとして取り入れられ、現在では仕事や教育機関などで円滑な人間関係を築くためのスキルとしても注目を集めています。
本記事では、アサーティブコミュニケーションとは一体どのようなものなのかをはじめ、アサーティブコミュニケーションを活用することによって得られるメリットやトレーニング方法を解説します。
アサーティブコミュニケーションとは?
「アサーティブ(Assertive)」には「断定的、言い張る」といった意味がありますが、「アサーティブコミュニケーション」の意味は「アサーティブネス(Assertiveness)」からきており、自分と相手を同じように尊重しながら、自分の意見を正当に主張するコミュニケーション方法のことです。
アサーティブコミュニケーションの具体的な考え方と、その方法について見ていきましょう。
アサーティブコミュニケーションとは
アサーティブコミュニケーションは、「誠実」「対等」「率直」「自己責任」の4つのポイントを意識しています。
ポイント1. 誠実であること
1つ目は、自分自身に対しても相手に対しても誠実であることです。嘘をつかず、相手か自分のどちらかに偏ることなく、平等に誠実な態度で接します。
ポイント2. 対等であること
2つ目は、たとえ相手との間に上下関係がある場合でも、同じ人間として対等であるという考え方です。相手が目下だからといって軽く扱ったりせず、反対に目上の人だからと自分を卑下することなく、自分も相手も対等に尊重した態度でいることが大切です。
ポイント3. 率直
3つ目は、相手に伝わる言葉で、嘘偽りなく自分の気持ちをありのままに伝えることです。感情的にならず、また「皆さんが言っていました」などと第三者の意見を交えたりすることなく、自分自身の気持ちや意見を率直に話すようにします。
ポイント4. 自己責任
4つ目は、自分が言ったこと、言わなかったことで生じたコミュニケーションの結果の責任は、すべて自分で取るということです。お互いが「自己責任」の考えを意識すれば、たとえ自分の意見が受け入れられなかったとしても相手を恨むことがないので、関係が悪化する心配も少ないでしょう。
この4つを柱として、相手を尊重しながら自己主張するのが、アサーティブコミュニケーションです。
アサーティブではないコミュニケーションとは?
アサーティブではないコミュニケーションには、大きく分けて「アグレッシブ」と「ノンアサーティブ」の2種類があります。
「アグレッシブ」とは攻撃的タイプを意味しており、自分の意見を主張するばかりで、相手の気持ちや意見は尊重しないという、とても自己中心的なコミュニケーションです。
一方的な主張をするだけで意思の疎通ができていないため、結果として自分の主張が通らなかったり、もし通ったとしても相手に良い印象を残さないので、今後の良い関係性を築くのは難しいでしょう。
「ノンアサーティブ」とは非自己主張タイプのことで、さらに「受け身的タイプ」と「作為的タイプ」に分類されます。
「受け身的タイプ」は、相手の立場になって気持ちを考えられる一方で、自己主張することで関係が悪化するのではないか、などと気にしすぎてしまい、自分の気持ちをうまく伝えることができません。気を使い過ぎるので、ストレスをため込みがちです。
「作為的タイプ」は、自分の言葉で気持ちを伝えるというよりは、態度や雰囲気などで相手に察してもらおうとするタイプです。また、第三者を通じて自分の主張を伝えることもあります。回りくどい、嫌みっぽいと感じられることもあります。
アサーティブコミュニケーションができるようになる3つのメリット
他人とのコミュニケーションは、仕事でもプライベートでも日常的に行われるものであり、これか円滑になることで大きなメリットが得られます。
人間関係の改善・向上
アサーティブコミュニケーションで相手を思いやりながら自分の主張を伝えることで、円満な人間関係を築くことができます。
特にビジネスシーンで上司や部下、同僚と接するときには、アサーティブに意見や要望を伝えることで、仕事の効率や生産性が上がります。気軽に相談しやすい関係性を築いておけば、トラブルやストレスも減り、ひいては離職率の低下にもつながっていくでしょう。
精神的な健康を保つ
相手の気持ちを気遣い、また、相手にどう見られるかが気になって、うまく自己主張ができないという方も多いのではないでしょうか。しかし、自分の意見を伝えられないことは思った以上に大きなストレスになり、ひどくなると心身に不調をきたしてしまうこともあります。
心理学の認知行動療法の一つとして取り入れられていたアサーティブコミュニケーションを身につけることで、必要以上に遠慮したり気遣いをしすぎたりすることなく、率直に自分の意見を主張できるようになり、良好な精神状態が保てるようになります。
ハラスメント対策
アサーティブコミュニケーションのポイントである「誠実」「対等」「率直」「自己責任」を意識すれば、お互いの理解や思いやりが深まり、気持ちの良い関係性が自然と築かれます。
特に上司から部下へは、アグレッシブやノンアサーティブな接し方をしてしまうとトラブルにつながりかねません。
現在のコミュニケーションの取り方を認知し、具体的にどのように変えていったら良いのかがわかるので、ハラスメント対策としてとても有効です。
アサーティブコミュニケーションを身につけるトレーニング法
アサーティブコミュニケーションを身につけるための具体的なトレーニング法をご紹介します。
DESC法
DESC法は、以下にご紹介する4つのポイントの頭文字を取っており、相手を傷つけることなく、納得してもらえるような自己主張をする方法です。
ポイント1. Describe(描写)
まず、現状を客観的に描写します。事実のみを具体的に表現し、自分の感情や思い込みを入れたり、推測で話したりすることのないように注意が必要です。
ポイント2. Explain(表現)
先程の客観的事実に対する、自分の主観的な気持ちを伝えます。たとえ不快なことであっても、感情的・攻撃的にならず、相手に思いやりを持って接することがポイントです。
ポイント3. Specify(提案)
次に、解決策や妥協案を提案します。このとき、なるべく具体的な内容を示しましょう。一方的な押し付けではなく、あくまでも提案・依頼という形を取ることが重要です。
ポイント4. Choose(選択)
こちらが示した解決策に対する相手の反応が、「Yes」だった場合と「No」だった場合に、自分がどういった行動を取るかを選択します。
アイメッセージ
自分の意見や主張を相手に伝えるとき、主語が相手である「ユーメッセージ」と、主語が自分である「アイメッセージ」の2通りあります。
例えば、上司が部下に何か意見を述べる場合、ユーメッセージで表現すると、強い命令形や攻撃をしているように受け取られてしまうことがあります。
これが、主語を自分にしたアイメッセージだと、命令したり責めたりしているわけではなく、「自分はこう思う」という柔らかい表現で伝えることができます。
人間関係に悪影響を及ぼすことなく、円滑に主張や要望を伝える方法として有効です。
まとめ
アサーティブコミュニケーションは、自分自身も相手も同等に尊重しながら、率直に自己主張をする方法です。
自分がどのように人と接しているかを見直し、もしアグレッシブやノンアサーティブに当てはまる場合は、今回ご紹介したトレーニング法を意識してみてください。
自己の主張が伝わりやすくなるとともに、人間関係の向上やコミュニケーションによるストレス低減にも大いに役立つでしょう。