「外国人技能実習制度」と聞いても、日本人にとってはあまりピンと来ないかもしれませんが、ここ数年で多くの外国人技能実習生が来日しています。日本国内の飲食店やコンビニなどで外国人から接客を受けたことのある人も多いのではないでしょうか。
ここでは、外国人技能実習制度の概要や誕生の背景にくわえ、外国人技能実習生が直面している問題と新たにおこなわれた法改正によるポイントなどについて解説しています。日本で働く技能実習生の実状と制度の改正ポイントを知り、日本語を学ぶ外国人の状況を理解するための参考にしてください。
外国人技能実習制度とは?
そもそも「外国人技能実習制度」とは、どのような制度なのでしょうか。
外国人技能実習制度の概要
外国人技能実習制度とは、日本が先進国としての役割を果たすために、日本の技術や知識を開発途上国の人々へ伝えることを目的として作られた制度です。日本で実習を受けた外国人技能実習生は、実習終了後に自国へ戻り、国を発展させる人材として活躍することが可能となります。
日本でも海外留学や、インターンとして現地で働いた後に日本へ戻り、グローバルな仕事へ就く手段とすることがありますが、アジアの開発途上国に暮らす人々にそういった「人材づくり」の機会を与える制度ともなっています。
外国人技能実習制度が誕生した背景
外国人技能実習制度が誕生した背景には、上記で挙げたような国際協力や社会貢献的な意味合いも含まれますが、他にも重要な理由があります。
現在の日本では少子高齢化が進み、労働人口の減少が問題となっています。これを解決する手段として、外国人の労働力がなくてはならないものとなっているのです。
また、訪日する外国人の数も年々増えてきており、特にアジア圏からの訪日外国人に対応できる人材が必要となっていることも背景となっています。
日本では海外からの入国を厳重に規制しているため、これまで外国人が日本で働くためのハードルは非常に高いものでした。そのため、外国人技能実習制度が施行されてからは、この制度を利用して日本で働く外国人が増えているのです。
外国人技能実習制度の利用者推移
現在の外国人技能実習制度は2017年に施行されたものですが、技能実習制度自体の歴史は古く、1960年代ごろから原型としての研修制度はおこなわれていました。技能実習制度を利用している外国人の人数は、10年前に比べると3倍近くになっており、2017年時点での実習生はおよそ28万人近くにものぼります。
また、これまでは中国からの外国人技能実習生がほとんどでしたが、2016年には中国の35.4%を抜き、ベトナムが38.6%となっています。ベトナム、中国に次いでフィリピン、インドネシア、タイと続きますが、これらの国から来ている実習生は10%にも満たず、日本にやって来る実習生の数はベトナムと中国で2分していることがうかがえます。
【法改正前】外国人技能実習制度の課題点
実習生にとっても日本人にとっても有益な仕組みであるはずの外国人技能実習制度ですが、実習生の増加にともない、いくつかの深刻な問題点が指摘されるようになりました。2017年11月の法改正による改善点を確認する前に、改正前の問題点について解説します。
実習生の低賃金・長時間労働問題
制度の問題点のうち、外国人技能実習生に対して低賃金や長時間労働など、劣悪な労働条件で働かせていた事例は大きく報道されたため、聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。
岐阜県で働いていたカンボジアの実習生の事例では、時給300円で月に180時間近い残業を強いられていたケースもありました。外国人労働救済センターなどへ助けを求めてはじめて発覚することも多いため、大小の差はあったとしても、実際にこういった悪条件で労働している実習生は報道されるよりも多いと考えられます。
事故件数の多さ
厚生労働省では、2018年に労働災害によって負傷や死亡した外国人労働者の数が2,847人にのぼり、過去最多であったことを発表しています。労災による外国人の死傷者は年々右肩上がりに増えており、このうち3割程度が外国人技能実習生となっていました。
日本で働く外国人の増加に比例していることと、日本で働ける業種が限られていること、安全衛生確保がされないまま、労働に就かされる実習生が多いことなどがおもな理由として挙げられますが、無視することのできない問題です。
失踪する実習生
上記のような理由も原因となり、実習生として日本で働きはじめたのちに失踪する外国人も増えているのです。法務省の発表では、2017年の1年間で失踪した実習生は7,000人を超しており、2013~2017年の5年間ではおよそ26,000人にもなることがわかっています。
外国人技能実習制度の改正ポイントは?
上記のような問題を改善するために、2017年11月に外国人技能実習制度の法改正がおこなわれました。どのように改善されたのか、また今後どのように変わっていくのかについても解説します。
監督制度の導入
法改正によってもっとも大きく変わった点は、「外国人技能実習機構」を設けて、機構による監督制度を導入した点です。技能実習生を受け入れる団体は必ずこの機構の許可を受けなければならず、許可されるためには適切な実習計画を提出して認定を受け、改善命令に従わない団体には許可を取り消すシステムへと改正されました。
監理団体を許可制に変更
実習生を監理する管理団体についても、これまで許可を必要としなかったものが許可制へと改正されています。監理団体として許可を受けるためには一定基準を満たしている必要があり、登録料や申請手数料も必要となりました。
許可を受けない監理団体は実習生の受け入れに係る事業ができなくなるため淘汰され、基準をクリアすることで外国人実習生の労災や失踪を軽減できるメリットも期待されています。
実習生への保護や優遇措置
外国人技能実習生が労働環境で悩んだり、違法な労働を強いられたりした場合、通報や申告、救済を求められる体制も整備されました。実習中に企業の経営不振などで中途帰国を余儀なくされた場合の優遇措置についても、今後検討される可能性がありそうです。
まとめ
外国人技能実習制度は、日本の少子高齢化と開発途上国の人材育成を同時に叶える制度である反面、制度を悪用するケースや劣悪な労働環境、労災による事故や失踪といった問題点も指摘され、2017年11月に法改正がおこなわれました。改正によって外国人実習生の環境が改善され、日本への憧れを失わずに働いてほしいと願わずにはいられません。