日本語教師としてフリーランスで活躍されている3名の講師に座談会形式でフリーでのお仕事や活動内容についてお話を伺いました。
座談会参加者
左:林田 なぎ(はやしだ・なぎ)氏(以下、林田)
中:井上 里鶴 (いのうえ・りず)氏 (以下、井上)
右:関 なおみ (せき・なおみ)氏 (以下、関)
日本語教師になったきっかけは?
井上
大学3年生の時に地域のボランティア日本語教室で日本語を教えたのが最初のきっかけでした。
もともと大学が英文科で語学が好きだったこともあり、英語が生かせる可能性がある仕事の中で、最初に興味を持ったのが日本語教師という仕事でした。
本格的に日本語教師としてお仕事を始めたのは2004年なので15年になります。
関
高校時代に県内の高校生を対象に東南アジア諸国と交流を深めるプロジェクトがあり、たまたまそれに選ばれて、現地の生徒さんと交流したんですが、そこで第3外国語として日本語を学んでいるという人たちが非常に多くて。
お友達になった人たちともっと話したいなと思って帰国した時、ちょうど日本語教師を題材にしたドラマが流行りまして、日本語教師という仕事があるんだなと知りました。
すぐに日本語教師を志してどうすればなれるのか調べ、大学に行きながら養成講座に通いました。
修了後にお仕事の紹介があり、韓国へ行きませんか?とご提案いただいて、ご縁で1年間渡航しました。
キャリアでは17年になります。
林田
小学生の頃に英語を習っていまして、洋楽ばっかり聴いていた小学生だったんです。
小学校4~5年生の頃にネイティブの先生に英語を習っていたんですが、自分の母語を教える職業があるんだと職業感としては割と早い段階から認識はしていました。
それからすっかり忘れて大学在学中に声優養成所に通い、声優業界の中でイベントMCや司会業などをやっていました。
それから上京して喋る仕事を中心にしていたのですが、30を過ぎた頃にセカンドキャリアを考え始めて、その時に日本語教師という仕事を思い出しました。
もともと喋る仕事や人前で話す言葉を使う仕事が中心だったので、今までのスキルをそのまま生かせる仕事として選びました。
フリーとしてお仕事されているということですが、現在どのような活動をされていますか?
井上
外国籍の人に教えるということでは、大学の非常勤講師として留学生に教えています。
他に、日本語教師養成講座の講師、地域のボランティア日本語教師のための研修講師、一般の方や企業の方向けに「やさしい日本語」講座というものをやっています。
「やさしい日本語」というのは、普通の日本語よりも語彙や文の構造が簡単で外国人にもわかりやすく伝えるための日本語のことです。
それを行政や企業などの研修で行っているんですが、外国人社員が多く在籍している企業さんからの依頼が増えています。
関
日本で就職を目指す留学生を対象に、専門学校で複数授業を持っています。
また、日本語教師とは違うのですが、専門学校で日本人学生対象の授業も持っています。
プライベートレッスンも複数持っています。
クライアントさんで言うと企業や大使館、そして一番多いのは海外にルーツを持つ子どもたちの日本語レッスンです。
その子どもたちの通っている学校にも日本語のクラスがあるらしいのですが、それでは到底足りないということで家庭教師としてレッスンを行っています。
また、それ以外にも日本語教師を始めたばかりの方や日本語教師を対象に、教え方の勉強会を主催しています。
林田
現在は、経済連携協定に基づいて来日している外国人看護師・介護福祉士候補生の方々に教えています。
あと日本語学校を2つ掛け持ちしています。
他にビジネスパーソンに対するプライベートレッスンや、日本語能力試験の教材開発をしている会社さんから、問題作成の発注をいただいています。
最近ではeラーニングが主流になりつつありますので、そういった教材づくりをしています。
フリーランスでよかったこと、面白かったことはありますか?
井上
フリーであることにまだ悩みや葛藤があります。
やはり所属があった上で動く安心感はありますので。
一方で、最近は「井上里鶴」という個人の名前で仕事が来るようになって、所属というのは関係ないのだなと感じることが増えています。
そういう点で、フリーで良かったというよりは、自分の名前で仕事ができることに喜びはあります。
関
フリーランスの強みというのは自分のスケジュールを自分でコントロールできるというところですね。
これはとても珍しい案件なんですけれど、芸能人の方からレッスン依頼を受けたことがあります。
芸能人の場合、スケジュールがとてもフレキシブルで、前日に明日何時でお願いしますとかあるんですよね。
取材に同行することになってロケバスに初めて乗ったり、そんなフリーランスならではの経験もあります。
林田
フリーランスになること自体が、それなりに自分の実力を見てお仕事を頂いているということなんですよね。
例えば日本語学校の授業ですが、全て私のオーダーメイドの授業をお任せいただいています。
通常、そういう教育機関はこの教材を使ってこういう進め方をしてくださいとか、かなり縛りがあるところがほとんどなんですが、そのようにオーダーメイドでクラスを任せていただいて、自分がやりたかった日本語教育が実現できるということは、とても面白いことでもあり、幸せなことでもあり、いろいろな意味で日本語教師冥利に尽きます。
日本語教師として意識しておられることはありますか?
林田
あります、口癖ですね。
1年半から2年ほど教えた学生が、私みたいな喋り方しちゃうんですよね。
私はすぐ「なんだっけ」って言うらしいんですが、それを絶妙に使いこなしていて。
学生も「先生の口癖がうつってしまいました」って言うんです。
なので口癖は気をつけるようにしていますね。
井上
私自身が日本語教師を目指す方を対象とした講座や研修をしていることもあって、自分が話す日本語がわかりやすいということは意識しています。
一文は短く、明るく、はっきり、大きく話すというのはとても気をつけています。
隣の教室で授業をしていた先生から、「いつもマイクを使って話していると思っていました」と言われたことがありまして。
それぐらい通るように意識して話しています。
駅前の日本語学校で働いていた時には、学生が駅のホームに降りたら私の声が聞こえてきて、「どこに先生がいるんだろう!?」と思ったら学校の窓からだったとか。(笑)
関
滑舌良く話すよう、イントネーションとアクセントに気をつけています。
私の出身は千葉なんですが、アクセントが平板化するんですよ。
普通に話しているつもりが、アクセント辞典を調べたら違っていたこともあるんですね。
数字のアクセントが結構違っていて、駆け出しのころ録音してテキストを見ながら確認したら、かなり違っていたことに気がついて驚いたこともあります。
あと方言が出るときがあります。
自分はそれが標準語だと思って話していたら、実は標準語じゃなかったとか。
そういう経験からきちんと言葉を調べるようになりました。
教室だと先生が教えたことをリピートして覚えていくんで、そこで間違ったアクセントを教えてしまうとそのまま入ってしまうんです。
言葉を教えることも大切なんですが、正しいイントネーションやアクセントで話すことできちんと言葉が通じるので、そこに気をつけています。
林田
以前担当したクラスで「話しまーす」とか「走りまーす」とか、語尾を伸ばす癖がついてしまった学生たちがいたんです。
日本語の長音って難しいものなので、学習者が最初に覚えてしまうとなかなか修正しにくいんですよ。
教える人がそういう喋り方をしていると、学ぶ方もおかしな話し方をそのまま学習してしまいます。
そして一度覚えてしまうと、正しい形に直すのにはとても手間がかかります。
関
以前プライベートレッスンをしていた芸能人の方は、お母様が日本人でお父様がアメリカの方で、一応日本語が少しは話せたんですが、とにかく言葉がフランク過ぎて。英語には尊敬語や謙譲語の概念があまりないので、目上の人に普通にカジュアルな話し方をしてしまうんです。
でもこれからビジネスをしていく上でしっかり学びたいということだったので、丁寧体から入って直していったんですが、本当に大変でした。
井上
日本語って自分を表すだけでも、わたし、わたくし、おれ、ぼく、あたし、うち、など他にも複数の言い方があります。
相手に対する話し方も、TPOやその人との関係性などによって変わってきます。
日本語を学ぶきっかけがアニメから入った学習者だと、お前や貴様と言ってしまうことがあるんです。
彼らはそれが悪いことだとは思っていなくて、ただ日本語を聞いて覚えて使っているだけなんですが、時々驚くことはあります。
林田
ありますね、そういうフランクな日本語になりすぎてしまうこと(笑)
私はある日本語学校では携帯電話をすべて回収して授業が終わった後に返却しているんですが、ある学生が「先生、電話寄越せ」って言ったことがあって。
意味は通じるんだけど、それはだめですよね。些細な場面で出てくるんですよね。
これからの日本語教育についてどう感じられますか?
井上
日本語教育ってとても多様な現場があるので一様には言えないのですが、日本語教育と言った時、これから受け入れる日本人や日本社会側も変わっていかなければいけないなというのを感じていて、それもまた日本語教育の一環かなと考えています。
「やさしい日本語」講座もそうですが、知らないから誤解が起きたり摩擦が起きたりするので、お互いを知るところから始めませんか?という部分の手助けができたらと思います。
日本語教師は外国の方にとっても身近な存在だと思うんです。
だからこそ、そこを繋いでいく役目を果たせるのではないかなと思います。
関
今後、日本に来る留学生は法整備が厳しくなっていく中で減っていく可能性があります。
なので、日本語教師として教える場が日本語学校だけではなくなっていくかなと。
日本語教育を必要とする人たちも多様化しています。
私はたまたまキッズの日本語教育に関わる機会が多いのですが、国がもっと国費を投じて行政や学校の中で日本語教育をしっかり行い、経済格差から語学の格差が生まれ、教育格差にならないようにするべきではないかなと思います。
日本語教育を必要とする人たちはもっとたくさんいるので、そういうところに国が手を伸ばして充実を図るために、日本語教師を派遣してより良い日本語教育にしてもらえたらいいかなと思います。
林田
日本語学校では直接法という日本語だけを使って言葉を教える方法をとっているのですが、最近の学生たちの傾向がだいぶ変わったと感じます。
すぐ答えを知りたがる。ある言葉や文法の意味を伝えるのに、直接法で様々なアプローチをすると、答えにたどり着くのに時間はかかります。
例えば「実習期間」という単語の意味がわからない。それに対して日本語教師はどう説明するかと言うと、「仕事を始める前に、仕事を覚えるために練習する時間です」、と教えるんですがそれを聞いて理解するよりも、ダイレクトに自分たちの理解できる言葉と結びつく単語を知りたがるり、すぐスマホで調べてしまいます。
そもそもそういう学習法に慣れていない今の人達に対して、もう直説法は崩壊するのではないかと感じています。
実際に直接法で授業している日本語学校のクラスでも苦労されている先生方の話をよく聞きます。
日本語の教育法も教師のあり方も大きく変わる時期に来ているのではないかなと、そう考えています。
井上
キーワードとしては、地域に根ざした日本語教育です。
私は今、茨城県のつくば市周辺で活動していますが、あの地域の日本語教育のことはあの人に聞こう!と思ってもらえるような存在になりたいです。
私が今取り組んでいる活動も地域に根ざしてやっていますが、地域の国際交流協会や日本語教室、企業さんからも相談事がくることもあります。
最近あったのが、近くの助産院さんからのお話です。外国人の妊産婦さんが増えてきているので、その方たちとのコミュニケーションツールとして「やさしい日本語」を取り入れたいというお話ですね。
さらに、外国人のお母さんたちがお産の後、地域で孤立してしまう場合があるので、そういうお母さんのための交流の場を作っていきたいという相談でした。
そういった相談や依頼が日本語教師に来る時代なんだなということを感じます。
日本語教師は外国人の文化や言語、彼らが話す日本語に対して理解があり、外国人にとっても身近な存在です。
今後も地域の方から相談しやすい存在でありたいと思います。
関
日本語を教えているけれど、同じ学内で相談する場がないとか、学内の見学や研修制度がまったくないという日本語学校が多いんです。
そういう方々が悩みを抱えていることが多いので、2016年から東京を拠点に勉強会を立ち上げたんです。そうしたら問い合わせをたくさん頂いて、大阪や福岡、名古屋、神戸でやらないのですかというお言葉をいただきまして。
自分の勉強会に海外や沖縄など遠方からのご参加の方も結構いらっしゃったので、関西の方で勉強会をしたいという声をご縁に大阪と名古屋で開催することが出来、今度は福岡でも開催させていただきます。
また11月にも京都で開催することになり、少しずつなのですが勉強会の輪が広がっています。
海外でもお悩みの方がいらっしゃるので、オンラインでもサポートをしていきたいですね。
林田
私は出会ったことがない学習者と出会いに行きたいですね。
今までの活動の場は留学生が多い日本語学校やプライベートレッスンはビジネスマンの方々だったので、日本語はある程度流暢に話せる方のためのブラッシュアップが中心でした。
今教えている介護福祉士候補生の方たちには仕事に必要な場面を想定した声掛けの日本語がメインなんです。
なので、これまで会ったことのないタイプの学習者に会いに来たいという気持ちがあります。
そのためには一つの学習機関にとどまっていたら難しいと思います。
どういう方がフリーランスに向いていると思いますか?
林田
まずは好奇心が旺盛であることがなによりも大前提だと思います。
向き不向きもですが、まずはやりたいかやりたくないかですね。
まずは日本語教師だけで生計を立てたいのかそうでないかということ。そして一度はどこか学校で教える経験を積んだほうがいいですね。
なるときには自然とフリーになる時が来ます。そして向き不向きで言えばブレない柔軟性が必要だと思います。
仕事を頼みやすいと思ってもらえる柔軟性、頑固すぎない人間性ですね。
気安く話せることは大切です。
「知らないから私できない」じゃなくて、「やってみよう」と思ってやることなんです。とにかく恐れずやってみる。その柔軟性は大切です。
関
あとは企画力があることですね。
自分で色々とマネジメントして、すべて自分で管理する必要があるから、マメな人のほうが向いているのかもしれません。
あと営業力ですかね。自分がやりたいなと思うことがあったとして、企画からフライヤー作成、宣伝、運営まで全て自分でやることになるので、自分がなにかすることが好きな人は向いていると思います。
あとやはり、話しやすさは大切です。専門学校でも教えているんですが、飲み会によく顔を出していたのでそこから仕事に繋がったことも多く、自分が今まで意識していなかった切り札が増えたり挑戦ができていきます。人と繋がりたいと思う人には向いています。
井上
フリーランスって個人商店と同じなので、企画力、営業力、交渉力、そういった日本語教師にプラスする部分が大きくなってくるので、そこを楽しんで挑戦できる精神は必要です。
私が思っていることですが、「フリーランスは必然的になる」のではないかと感じます。
なろうと思ってなる人はある程度の実力が必要になってきます。私の場合は必然的になったなと思っています。求められる場面や仕事内容が複数になってくると一つの場所に収まっていられなくなって、フリーの位置にいる自分だからこそ今の自分があると感じます。
これからフリーランスを目指したいという方は、すぐには無理かもしれませんが自分が求められる場面や仕事内容が増えてきた時に是非、選択肢の一つとして挑戦して欲しいと思います。
林田
挑戦したいと思い、わからないことに試行錯誤する新しい自分を楽しめる人には本当に向いています。
無理、できない、で思考停止してしまわないことですね。
関
できない怖いと思わないで、やってみよう!と思うことから始まります。
井上
あとは、できないときには人を頼る素直さですね。
全部自分でやるなんて無理なんです。
その時に人の力を借りること、そして頼ることから横のつながりが増えていきます。
関
フリーランスは孤独だと思われがちですが、意外とその道に通じてる人が多いので、わからないと思えば聞いてしまいますし、私は孤独だと思ったことがないんです。
わからなければ聞いて、その人達から新しい繋がりができて、世界が広がっていきます。
日本語学校の中で悩んでいる方も多いんですが、働く場所はそこだけではないので、自分にあった働き方をするのが一番いいのではないかなと思います。
いろんな方向性や教える幅、人としての厚みを得ることもあります。
まとめ
日本語学校などの教育機関に属さず、フリーとして活躍されてる方々の本音トークはこれから日本語教師を目指す方、現在日本語教師として活動されている方にとっても参考になる内容が満載でしたね。
多様性がますます求められる日本語教師も働き方は人によってさまざまです。
皆さんも自分に合った働き方の日本語教師を目指してくださいね。