目次
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  1. 1. 「あいづち」や「うなずき」は日本人特有?他国での考え方
  2. 1. 日本と海外での「あいづち」が与える印象の違い
  3. 2. 外国人留学生が感じた、オンラインでのメリット
  4. 2. 話を聞くときにとるべき態度は一通りではない
  5. 3. 最後に

「日本の学生とグループワークをするとき、とても話しやすいんですよ。特に、オンラインのときにそう感じます!」

これは、ある留学生Aさんが私に、日本の学生とのやりとりについて語ってくれたときのセリフです。

Aさんの感想に、私は「へえ~?!」と驚きました。

そこで今回は日本文化のひとつ「あいづち」や「うなずき」のしぐさについて、外国人留学生のお話をもとに特長を考えてみましょう。

文:志賀玲子講師

「あいづち」や「うなずき」は日本人特有?他国での考え方

「日本の学生は話しやすい」と教えてくれた留学生のAさんは、確かに、問題なく日本の学生と日本語で議論ができる日本語力を備えています。でも、私は最初、このセリフの真意がよく理解できませんでした。

「相手が日本の学生のとき?・・ということは、自国の学生と比べている?自国の人より、日本の人のほうが話しやすい?グループワークのとき?・・・ということは、相手が複数の方がいいってこと?しかも、オンラインのときってなぜ?」

Aさんが何を言いたいのかを明確につかめず、私の頭は推測、憶測が行き交う状態・・・
それからAさんにその意味について聞いてみると、Aさんが言わんとしていることが徐々に明らかになってきました。
つまり、日本の学生は「あいづち」や「うなずき」をしながら話を聞いてくれるので、安心感をもって話すことができる、ということだったのです。

「Aさんの国では、あいづちやうなずきをしないのですか?」
「しません。すべての話が終わったところで、最後にリアクションします。」
「そうなんですね・・・。」

他の人が話している間は特に反応をせずに聞き、話が終わってからようやく反応する、というのが、Aさんの親しんできた「聞く姿勢」なのだそうです。
そのやり方に慣れてきたけれど、最近オンラインでの授業やセミナー等が増え、「あいづち」や「うなずき」が伴う日本の学生とのやりとりのほうが話しやすいということに改めて気がついた、というのが彼女の主張でした。

「どうして話しやすいのですか?」
「ちゃんと私の話を聞いてくれてるっていうことを実感するので、ああ、この調子で話せばいいんだって、安心して続けられるんです。応援してもらっている感じがします。」

日本と海外での「あいづち」が与える印象の違い

「あいづち」については、別の国の留学生Bさんからも話を聞いたことがあります。そのときは、今のようにオンライン授業が普及していませんでしたので、必然的に対面でのやり取りの話に限定されたものでした。

Bさんいわく、

「私たちの国ではあいづちをあまり打ちません。日本の人はよくあいづちを打つので、最初はすごく戸惑いました。」
「あら~そうなんですね。どうして戸惑ったのですか。」
「私たちの感覚では、あいづちを打たれると、早く話せよ!と言われているような感じがするんです。」

要するに、「あいづち」は相手を急かしているような印象を与えるということなのです。
だから、しっかり相手の目を見て、話を聞いていますよ、というメッセージを視線で伝えながら、何も言わずに聞くのだそうです。
確かにBさんは私と話すときも視線をしっかりとこちらに向け、そらしません。視線をそらすことなくずっと見つめられることに、実は、ちょっと居心地の悪さを感じることもありました・・・。

日本の人は、視線をそらさずに相手を見つめ続けること、逆に見つめられ続けることに慣れていないようです。相手と目を合わせながらも、ときどき視線をずらして相手に威圧感を与えないようにしているような気がします。
そのため、あいづちによって、話を聞いていますよ、というメッセージを伝えているのでしょうか。

オンラインでのやりとりが増えてきた今、Bさんがあいづちについてどう思っているのか聞いてみたいところです。

外国人留学生が感じた、オンラインでのメリット

Aさんの話に戻りましょう。
Aさんは、以前は「あいづち」や「うなずき」について大して気に留めていなかったそうですが、オンラインでのやりとりが広まるにつれて、その効果に意識を向けるようになり、自分自身もできる限り「あいづち」や「うなずき」を入れ、相手にしっかり反応するよう心掛けるようになったそうです。
オンラインの場合、相手の視線が捉えにくいという特徴もありますし、話し手と聞き手の役割分担が対面での対話の時以上に明確になります。「聞き手の姿勢」というものが以前にもまして問われるようになってきているのかもしれません。

いずれにせよ、Aさんはオンラインにより「あいづち」と「うなずき」の効果を実感し、自ら率先して実践するようになり、その結果、対面でのやりとりに芳しい影響が出てきたということでした。

そういえば、迷惑電話の撃退法で、返事をせず、あいづちも打たない、という方法を聞いた記憶があります。声だけのコミュニケーションですから、応答は音声だけです。音声で何の反応もないと、話し手が話を続けにくくなるのだそうです。先ほどのAさんの話につながります。

Aさんの話の中には、「日本人は、にこやかに話を聞いてくれるから話しやすい」という言葉もありました。表情のことです。
これも、Aさんにとってはある意味新発見で、にこやかにうなずきながら話を聞いてもらえると、受け入れてもらっているという気持ちが高まるということでした。

さて、表情ということでいうと、また別の国のCさんのことが思い出されます。
Cさんは、授業中もほとんど笑わず、私と話すときもまるで怒っているかのように表情を変えませんでした。かといって堅物なのかというとそういうわけでもなく、真面目な表情のまま、ジョークを言うのです。

あるときCさんとゆっくり話す機会がありました。

「人の話を聞くときに笑顔を見せるのは、相手を馬鹿にしている印象を与え、真剣に話を聞いていないようで失礼だ」

このような感覚を、Cさんたちはもっているそうです。
ですから、授業中もとても真剣な面持ちで表情を崩しませんし、人と話すときにも怒っているかのように表情を変えないのだそうです。しかしそれは相手への「誠意」なのだということです。
怒っているように見えた表情は、誠意の現れだった・・・随分と受け止め方が違うのだなあ、と思ったものです。

話を聞くときにとるべき態度は一通りではない

ここで私がお伝えしたいことは大きくわけるとふたつあります。

ひとつは、それぞれの人の習慣や感覚によって、他人の話を聞くときにとるべき態度が異なるということです。
いろいろな文化背景の人々と同じ空間、同じ時間を共有する場合、自分と同じ感覚の人ばかりではないということを認識する必要があるでしょう。
勝手な思い込みや自分のものさしにより、相手の態度を評価することは避けねばなりませんし、また、自分が不必要に傷ついたりすることはないということです。ときどき「あの学習者は私を受け入れていないのではないか?」と悩んでいらっしゃる方がいますが、案外、そうではないことがありそうです。おおらかな気持ちで対応すべきでしょう。

もうひとつは、環境が変わることによって、それぞれの感覚や習慣も変わる可能性があるということです。
文化は常に動態的で変化しつづけているということでしょうか。

最後に

今回は、オンライン化が進むなかで、コミュニケーション方法について新たな発見をした留学生のお話をご紹介しました。

今後も、対面ではない、オンラインだからこその文化も発展していくでしょうし、これからはそこでのマナーというものが築き上げられていくのもかもしれません。

それぞれの習慣や感覚を大切にしながらも、その多様性を認め想像力を働かせること、そしてそうした文化は絶えず変化をしているのだという視点をもつことも、これからの時代に必要な姿勢なのではないでしょうか。